わたしを離さないで

iTunes で鑑賞。大雪に閉ざされて身動きが取れない中で、こういう静かな映画をしっとり観ると、心にじわっと染み込んでくるものがある。

小説の映画化だからちょっと気難しい内容なんじゃないかと身構えていたが、案外ストレートな愛のお話しだった。
最初から臓器提供者という定められた運命のもとに成長していき、二十歳前後あたりの心身ともに充実した時期に1回目の提供手術で運良く生き延びることが出来ても、結局コンプリートするまで臓器が取り出され続けるという、なんとも非情な設定なのだが、しかしこの物語のベースとなる設定がじつに秀逸だなぁと思う。これじゃどうしたって哀しいお話しにしかならない。
映画を観ていて、仲間から離れて一人遠い場所で生きていく主人公の孤独さだとか、森の中で本当の気持ちを伝えられない青年のもどかしさだとか、真実を告げられ車から外に出て吠える提供者とそれを見守る介護人だとかが、自分の過去の経験といくらか重なるようなところがあって、そういうのをあれこれ思い出したりしていると、ずいぶん心に響いてくるものもあり、またけっこうつらい気持ちにさせられたりもした。
しかし、結局誰からも本当には愛されず、誰をも本当には愛せないまま、手術台の上で冷たくなって死んでいき、さらに最期には誰も周りにいないというのは、なんとも救いがないほどに悲しいことだと思った。そしてその姿は、自分の人生の最後と決して重ならないとは言い切れないなと考えると、余計に悲しく暗い気持ちになってしまった。
このお話しに救いというものはあったのだろうか。あるような気もするが、はっきりとは言い切れない。