松茸

例年通り、秋のこの時期がやってきたので、自分ちの山に松茸を取りに行った。「今年は豊作らしい」という昨年と同じような噂話に、やはり期待を膨らませて。
ずいぶん前から山の手入れというものを全くしていないので、木は倒れ、枯れ葉は積もり、荒れ放題なのだが、それでも歩けない程ではなく、昨年来たときと状態がそれほど変わっていないのが不思議だ。
小一時間ばかり、親と二人で山の中を探しまわったが、収穫はゼロ。ここ数年、ほんとうに松茸が生えなくなって、昨年も一昨年も収穫ゼロだった。ただ今日は、傘が開ききって虫が食ったような松茸を1本だけ見つけることが出来た。置いておけば菌が散らばって増えるかも、ということで取らずに帰った。
何十年も前の話しだが、まだ小学生の高学年のころは、手提げ袋が2つ一杯になるくらいに松茸が取れていたときがあった。おじいちゃんを先頭に、親と兄弟がその後ろをついて歩いても、みんな数本見つけて取って帰ることができた。あちこちで「あった!」「ここすごい生えとる」と声をあげたり、「あった!らいいなぁ」と冗談を言ったりして、松茸を見つけたご褒美の小遣いを楽しみに、必死になって山の中を這い回っていた。
こういうのはアレだが、思えばあの頃がいちばん幸福だったような気がする。祖父母がいて、両親もまだ気力体力がじゅうぶんにあって、喧嘩はよくするけれど仲の良い兄弟で泥だらけになって遊んで..。おせじにも裕福とはいえない家だったが、あたたかい愛情にあふれた時間の中に自分はいたように思う。
あのころと同じ幸福は、どうしたって再び味わうことは出来ないけれど、そういう子どものときの記憶というのは、かけがえのない財産であることは確かだ。