至福

朝、飼い猫の子猫をつれて畑の草取りに出る。濃い朝もやのせいで、太陽はのぼっているのに、まだ日の光が弱くてとても寒い。その日の光を背中に受ける格好でしゃがみ込み、草取りを始める。子猫も寒いので、自分のすぐ傍の黒マルチの上でじっとうずくまっている。次第に霧が晴れてきて、だんだん背中が温かくなってくる。子猫もゆっくり動き出して、小さな蜘蛛を追いかけたり、草を噛んでみたりする。ときどき草取りの手を休めて、子猫の腹をさすったり、尻尾をつかんだりして遊んでやる。
仕事へ向かう数台の車はすでに道路を横切って、大きな音を立てるものは周りにはなにも無い。いろいろな心配事や問題も、この草取りをしている間は、ひとまず脇に置いておける。厚着をしているせいもあって、体はもうすっかり温まり、草をせっせと取っていると暑いくらいになる。子猫はまだ飽きずに、ひとりで畑のうねの上を走り回って遊んでいる。少し冷ややかで湿り気があるが、朝の澄んだ空気は、肌に肺に心地いい。
長い間しゃがんでいると膝が痛くなってくるので1時間ばかりで切り上げるのだが、このところの朝に享受できる、至福のひとときだ。もう1、2週間もすると冷たい風が吹きつけるようになり、ぶるぶる震えながら畑仕事をするようになる。