お婆さん

家から少し離れたアスパラ畑に朝の収穫や草取りをしに行くと、その畑の傍の家に住んでいるお婆さんがたいていいつも家のまわりの草刈りをされていて、「おはようございます」と毎朝挨拶を交わしていた。ずいぶんと腰が曲がっているのだが、昔ながらに鎌を持ってせっせと草を刈り、その生乾きの草を上手に火を使って燃やしている。耳は少し遠いというが、近くで話すぶんには何の問題もなく、甲高いはっきりした声で会話ができる。もうすぐ92歳になられるそうだが、身の回りのことは手助けなく自分で出来るそうで、ほんとうにお元気なお婆さんだ。なんでも、宮本武蔵伊達政宗の単行本を読んだり、絵を習って描いたりもしているそうで、目もまだ確かなんだろうし、脳みそもまだまだ柔らかいんだろうなぁと感心してしまう。
自分が子どものころには、近所のどの家にもそういう元気な、腰の曲がったお婆さんがいた。みんなほんとうによく働く人たちで、いつも一生懸命に畑仕事をされていたイメージがある。そして、どのお婆さんも挨拶や会話を交わすときに、みんな揃ってとてもいい笑顔をされていた。上に書いた92歳のお婆さんも同じで、作り笑いとかそういう裏表な感じがまったくしない、実にいい笑顔でいつも挨拶を返してくださる。なんと言えばいいのか、あれは一体なんなんだろうと、どういう道すじを経たらあの笑顔に到達できるんだろうと、わけもなく考えてしまう。
そのお婆さんは、毎年、暑い夏場はこちらの田舎の家で過ごし、寒い冬場は元々の町の家に帰って過ごされているそうだ。先日、畑で草を取っていたら、「もうすぐ息子が迎えに来くるいうて電話があって、また来年ね」と声をかけていただいた。また来年、互いに元気な姿でお会いしたい。また、春のアスパラを持っていってあげたいと思う。